事業承継にかかる税負担は、とても大きくなるケースがあります。
場合によっては後継者の経営や生活に大きな影響を与えてしまいます。

親族への事業承継を予定している会社の株式評価額が高くなっている場合は、事業承継の節税対策が必要不可欠となります。将来の事業承継に備えて、納税負担の可能性や資金調達の方法、それから具体的な節税対策を検討する必要があります。

今回は事業承継における節税対策の必要性と具体的手法、またその注意点などについて説明します。

事業承継における節税の必要性

親族へ事業承継する場合、株式の引き継ぎは無償で行われるのが一般的です。
後継者が無償で株式を引き継ぐ際には、その後継者に贈与税相続税の納税負担が生じます。

多額の納税資金が必要なケースも

株式の評価額があまり高くない場合や他の財産が少ない場合には納税負担が生じないこともあります。
しかし株式の評価額は高くなるケースが多いので、多額の納税負担を強いられてしまう可能性もあります。

多額の納税負担を強いられても、納税資金さえあればとりあえずは深刻な状態ではありません。
しかし自社株式は換金性がなく、自社株式そのものでは納税資金は準備できません。

ここが大きな問題点です。

株式を売却して換金することも可能ですが、それでは会社を手放すことになってしまいます。会社の経営を続けていくためには、株式を保有し続ける必要があります。

会社を引き継ぎ経営していくために、多額の納税資金を自分で準備しなければいけないケースがあるのです。

安定的な事業承継と経営の為に事前の節税対策を!

銀行からの資金調達や会社の資金を使っての対応など解決方法はいくつかありますが、
どの方法であっても後継者に負担が生じることは間違いありません。

そしてその資金調達に無理が生じた場合には、後継者の生活や経営にも大きな影響を与えてしまいます。

このようなことが起こらないように、事前の節税対策が必要となります。
対策をするかしないかで、とてつもなく大きな差が生まれるのが事業承継の節税対策です。
この対策こそが安定的な事業承継と経営の継続につながります。
事業承継の節税対策は、会社の将来を大きく左右する最重要項目といえます。

それでは具体的な事業承継における節税対策を見ていきましょう。

事業承継における節税手法①暦年贈与

まずは生前贈与を毎年行い、贈与税の非課税枠を有効に活用して節税する方法です。
最もポピュラーで難易度が低いことから広く利用されています。

具体的内容―暦年贈与―

贈与とは?

無償で財産を他人にわたすことを贈与といいます。
「贈与者」・・・財産を渡す人
「受贈者」・・・財産をもらう人


●贈与税の非課税枠とは?
贈与者から財産をもらった受贈者には贈与税が課税されます。
しかし贈与税には受贈者ごとに年間110万円までの非課税となる枠があります。
この範囲で財産を贈与すれば贈与税はかかりません。


●310万円の贈与なら実質税率6.45%
また贈与税には超過累進税率が採用されていて高額な贈与には55%もの税率が適用されます。
しかし課税財産の価格が200万円以下であれば10%で済みます。

つまり非課税枠と合わせて310万円までの贈与は税率10%を適用できることになります。

【310万円の贈与に対する贈与税の計算式】
(310万円-110万円)×10%=20万円

【310万円の贈与に対する実質の税負担率】
20万円÷310万円=6.45%

これを毎年行います。
10年が経過すれば3,100万円の財産の贈与ができることになります。

相続税と贈与税の実質税率を比較して選択する

相続税の税率も最低税率は10パーセントとなっております。
相続税が必ず課税されるケースでは、この生前贈与を計画的に行うのが有利であると判断できます。

さらに高額な相続税率が課税されると予測出来る場合は、その税率と贈与税の実質税率を比較して有利な方を選択していくことになります。

非課税枠だけ利用してもOK

もちろん110万円の非課税枠だけを利用して、贈与税負担無しでの贈与だけを行っても十分効果的な対策といえます。

注意点―暦年贈与―

中長期での計画が必要

非課税枠と低い税率を利用するところに意味があることから、1年でたくさんの財産移転ができるわけではありません。毎年少しずつ積み重ねることで大きな効果を発揮します。

将来的に必ず対策が必要なはずなのに、計画や知識がないために実行されていないケースが見受けられます。中長期での計画が必要になります。

株式を撒き散らすような贈与はしない

また非課税枠は受贈者ごとに110万円設定されています。
このことから何も考えずにたくさんの親族に自社株式を撒き散らす行為が散見されます。
このことは節税対策にはなっても、そのあと後継者の首を締めることになりかねません。

大人しくしている親族だけでなく、株主として権利を主張してくる親族などが現れる可能性もあります。
株式の買い取りを求められらたりすると結局は節税効果以上の負担が後継者にのしかかります。

株式を贈与する相手は吟味しなければなりません。

事業承継における節税手法②事業承継税制の活用

次は事業承継税制の活用です。

具体的内容― 事業承継税制の活用 ―

事業承継税制は事業承継にかかる税金の負担を猶予する制度です。
多額の税負担を強いられる後継者にとっては、大変有利な制度となっています。
活用しないという選択はないという方もいらっしゃるかと思います。

くわしくは事業承継税制の詳細記事の方を御覧ください。

注意点 ― 事業承継税制の活用 ―

とても有利な制度である半面、その適用条件や届出書類などの難しさがあることから、専門家である税理士に依頼する必要があります。

高度な専門知識が必要であることから場合によっては費用倒れになって損をすることも有り得ます。
ほかの対策で十分対策可能な場合には、無理をして選択する必要はありません。

有利な制度だからといって安易に選択しないように注意してください。
有利不利をしっかり検討する必要があります。

事業承継における節税手法③株価対策

次は高額な評価となる株式の対策です。

具体的内容―株価対策―

事業承継にかかる税負担問題の原因は、引き継ぐ株式の評価額が高額になっている事です。
株式の評価については複雑かつ専門的な知識が必要であることから、ここでは説明を省きます。
しかし株価対策という方法があることは知っていただきたいと思います。

具体的には株価を一時的に下げてしまう方法となりますが、主なものは以下のとおりです。

【株価対策・株価を下げる方法】
・会社合併 ➡ 会社規模が大きくなると低い評価基準が使えることがある
・会社分割 ➡ 高収益部門の切り離しで利益が減って株価が下がる
・賃貸不動産購入 ➡ 資産の評価額が下がり株価が下がる
・不良資産を処分(損失計上) ➡ 資産と利益が減って株価が下がる
・役員退職金などを支給して一時的に大きな費用を計上 ➡ 資産と利益が減って株価が下がる

このようにある程度ではありますが、株価は自力でコントロールできる部分もあります。

注意点 ―株価対策―

株価を下げるということは、どのようなことであれ会社の状況が悪くなるということです。
あまりやりすぎて本業が傾いてしまっては本末転倒です。
やりすぎて本当に財産を失うことがないように注意しなければなりません。

事業承継における節税手法④相続時精算課税

最後は相続時精算課税制度の利用です。

具体的内容―相続時精算課税―

相続時精算課税を選択すると一定の条件をもとに2,500万円までの贈与については贈与税が無税となります。2,500万円を超えた部分については一律20%の贈与税が課税されます。

最後に贈与者が死亡した場合には、その贈与した財産はすべて相続財産に加算されます。生前に無税で贈与はできるものの最後に相続財産に加算されることになるので節税対策にはなりません。

しかしその最後に加算される財産の金額は贈与のときに確定します。

つまりこの制度を利用して必ず値上がりする財産や高収益財産のような将来の相続発生時に大きな価値となるであろう財産を事前に低い金額で引き継ぐことができます。

ここが大きなポイントで利用価値があります。

収益物件を事前に渡しておいて、その収益で納税資金を準備することなども可能となります。

注意点―相続時精算課税―

贈与の時点で課税される財産の価額が決定するということは、財産の価値が下がってしまえば将来に余計な税金を納めることになります。

相続税が課税される家族がこの制度を利用する場合、以下のような財産の贈与は厳禁です。

・財産価値が贈与時とかわらない現金預金
・財産価値が下がってしまう可能性がある財産

必ず価値が上がるものでなければなりません。

また相続時精算課税制度を選択した場合には、その贈与者からの贈与については暦年贈与の110万円の非課税の枠が使えません。
こちらも慎重な判断が必要になります。

事業承継における節税手法・まとめ

事業承継の節税対策は将来の会社の経営に大きな影響を与えます。
最もオーソドックスな節税対策である暦年贈与の活用は、長期計画を要するケースも多くなります。
株式の評価額の確認・その引き継ぎ方・納税資金対策・最も有利な節税対策の選定など検討すべき項目は多岐にわたります。
早めの準備と計画により、万全の体制を構築していただきたいものです。