この仕事をしていると会社経営者の方や個人事業主の方から、節税の相談を受ける機会がたくさんあります。
確かに会社に課税される法人税等、個人に課税される所得税・住民税の負担は頭が痛い問題であることは間違いありません。
もちろん可能な範囲で様々な提案をさせていただきます。

ただ節税には節税できるメリットと同時に、同じくらいのデメリットがあったりするところが難しいところです。
場合によっては経営者の方の本来の目的や将来を台無しにしてしまう節税もあります。
逆に節税を上手く活用できれば、会社を成長させて将来に向けての財産を形成することも可能です。
会社とその経営者の将来と目的に沿った節税対策を行うことが大事です。
ここを間違うと本来可能であった成長や安定的な利益と資金を失うことになります。

節税にも良い節税悪い節税があります。

今回は会社経営者の方や個人事業主の方の事業目的や方針に合わせた節税対策節税と成長を同時に実現していくための考え方についてお伝えします。

節税の種類とその優先順位

まずは節税の種類についてです。
節税には種類があり、その選択には優先順位があります。
これを間違うと大きな損失となり節税金額をはるかに超える資金負担をしなければならないこともあります。
また会社や経営者の目的や方向性に沿った節税を選択する必要があります。
基本的な優先順位と経営の方向性から最も適当な節税を選択する方法を説明します。

 

資金支出がない節税

基本的には節税を考えるのであれば、この資金支出がない節税を最優先で選択すべきであり、特に理由が無ければ積極的に実行していくべきものとなります。
外部への資金支出なしで節税をすることができるからです。
あまり数は多くないですが、このあたりをきちんと実行したうえで、資金支出を伴う節税も実行していくかを検討していきます。

利益配分の調整

会社や事業の利益を適正に分散することで、税負担の一極集中を避けます。
日本の主な税金には累進課税という方法が採用されています。
これは課税対象となる利益が増えれば増えるほど税率が増えていくというものです。
例えば個人に課税される所得税は低いところはわずか5%ですが、最高税率は45%(個人住民税10%と合わせれば55%)にもなります。
個人事業を行っている人がその利益をすべて自分のものとして、手伝ってくれている家族などに給料を支払わなければ、利益が事業主に集中して税負担が増えます。

大きく稼ぐ個人事業主の方が法人成りをしてその利益を法人である会社と個人である自分に分散するのもこの節税の一種です。
会社経営者の場合は会社に残す利益と自分で受け取る報酬などを調整することにより、その負担を軽減することも可能です。
会社も社長である自分だけが役員報酬をもらう形ではなく、家族などに支払できる体制などを構築することで利益を分散することができます。

適正な配分を行うことで外部への資金支出なしで税負担を減らすことができることになります。



正しい決算整理と申告

こちらは正しい計算をすることで経費を漏れなく計上したり、減価償却の特別償却や税額控除など税務上の特例を最大限活用したりするものです。
利益が出ているから納税が発生すると思っていても実はきちんと細かい未払の経費を拾ったり、税務上認められる有利な方法などを活用することで、実はそれほど税負担が生じないということもあります。

正しい決算整理で税負担が抑えられる可能性があるものは以下の通りです。

  • 貸倒債権の評価(償却・引当金の計上)
  • 不良在庫の処理
  • 減価償却資産(除却・耐用年数の特例・特別償却など)
  • 有価証券や出資金など再評価
  • 売上に対する売上原価の精査、不足分追加計上
  • 未払経費債務の計上(経費・給料・賞与など漏れなく)
  • 申告の特典をフル活用する

まず正しい決算整理と税務上の特典をしっかり活用しましょう。
決算整理の難しい部分や申告の特典の部分は我々専門家にお任せください。

非課税の活用

一般的には経済的な利益を受ければそこには税負担が生じます。
しかし一部社会通念上問題のない範囲でわずかな金額であれば、経済的利益があっても非課税となるものがあります。
これが非課税制度と呼ばれるものです。
この制度を上手に利用することで税負担を下げることができます。
非課税制度の代表的なものは「旅費日当」「社宅家賃」です。

旅費日当

業務を行っていると県外や遠方に出張することもあると思います。
この場合は旅費規程を作成して概算の旅費を経費として出張した本人に支給することができます。
例えば出張すれば移動交通費や食事代やちょっとした備品代など通常かからない経費がかかってしまいます。
これを全部細かく計算できればいいのですが、なかなかそうもいかないケースもあります。
そうなると勢い報酬や給料でカバーしていまいがちです。しかし報酬や給料には税金や社会保険料がかかってしまいます。
そこでこの旅費日当の制度を活用することで、細かい精算は不要となり費用の補填ができます。出張が多い方はぜひ活用していただきたい制度です。
この方法は旅費としての支出はありますが、内部でやりとりするだけで外部に出ていく支出はありません。それでいて経費になり、消費税も控除出来て、もらった本人は非課税となっており大変有利な制度です。
ただこちらは残念ながら法人のみ使用可能で、個人事業主の方は使えません。

社宅家賃

こちらは賃貸住宅にお住いの役員や従業員にとってとてもうれしい制度となっています。
賃貸に住んでいる場合その家賃はそこに住む人が負担することになります。
その家賃は報酬や給料など税金が課税された後の残りの手取りの中から負担することになります。家賃の分を住宅手当として支給してあげても、そこにはやはり税金が課税されてしまいます。

そこで社宅家賃の非課税制度を活用します。
賃貸住宅を会社が借り上げてその賃貸住宅を役員や従業員に低額で賃貸するというものです。
一定の本人負担を徴収する必要はありますが、相場よりかなり少ない負担で済むことになります。そしてこの負担してもらった部分の利益は非課税となります。

会社にとっては負担額が増えることもあるので注意が必要ですが、税負担を避けながら会社が働く人の家賃負担をすることができる制度です。

こちらは外部に資金支出することにはなりますが、どちらにしても家賃の支払いは必要なので、その負担部分を非課税にしてあげることで役員や従業員の税負担を減らすことができます。

ただ若干のデメリットもあります。
通常時もそうですが、契約時や退去時・契約更新時などにも会社の負担が増える可能性が高いことです。
そこの部分については事前にルールを決めるなど慎重な対応も必要になりますが、賃貸にお住いの方がいる場合は検討していただきたい項目です。

 

節税は資金支出を防ぐために行うのが一番の目的です。
それなのに節税額以上の資金を支出して資金を失うのは本末転倒です。
まずは資金支出が伴わない内部で完結する節税を最優先に選択していきましょう。

資金支出あり(戻りあり)の節税

非課税積立

セーフティネット共済、小規模企業共済、確定拠出年金など会社の経費や個人の所得控除となる積立があります。
一般的に非課税積立などと呼ばれているものです。
細かい制度内容については割愛しますが、共通点は掛金を積立することでそれが経費又は所得控除となり節税効果があり、かつその掛金は預金のように積み立てられて将来なんらかの形で受け取ることができるというものです。
いくら非課税と言っても資金支出を伴いますので、掛け過ぎは注意が必要です。
そこを気を付ければおススメの非課税制度となりますので、興味のある方はこちらの詳細をご確認ください。

セーフティネット共済
小規模企業共済
確定供出年金

生命保険の活用

昨年2月にバレンタインショックと呼ばれる生命保険業界に激震が走る出来事が起きました。
それは今まで認められていた生命保険を活用した節税商品のほとんどが今後販売停止になるというものでした。
それまでは節税をしながら多額の積立を行うことも可能でした。
こちらは現在大幅な見直しが行われ、以前ほどの大きな効果のある保険契約はできなくなりました。
しかしまだ利用できるものは少なからずあります。
節税しながら将来へ備えることは今でも可能です。
支出はありますが、そのほとんどが戻ってくる仕組みを上手に利用していきたいものです。
こちらも資金支出を伴いますので、掛け過ぎは注意が必要です。

レバレッジドリースなど

匿名組合出資金という制度を利用した節税金融商品があります。
航空機のリース事業などが有名です。
一定の資金を支出して、最初は経費が大きく節税となり、後々利益が出てきて、最後に支出した資金が戻ってくるという仕組みのものです。
似たような節税対策と呼ばれる商品はほかにもあります。
コンテナ、スロットマシーン、アメリカ不動産など種類は様々ですが、すべて似たような仕組みで節税できるものです。
このような商品に節税の効果(正式には繰り延べ)があることは認めますが、正直おススメはできません。
どうしてもやりたいという方については合法である限り止めませんが、大事な資金をよくわからないものへ投資するというのは、いくら節税になっても無駄遣い以外の何ものでもないと考えます。
もっと効率の良い資金の使い方をご検討いただきたいものです。

資金支出あり(戻り不明)の節税

ここが勝負どころの最も大事なところとなります。
節税というよりは経営者としての将来への投資とも言える部分となります。

「利益が出た時にその利益をどのように節税しながら将来に活かしていくか」

節税を兼ねながら会社を大きく成長させられるかどうかの大事な分かれ目になります。

利益還元

まずは利益還元です。
主にその利益に貢献した人や協力業者などが対象となります。
従業員への決算賞与などがよくある例として挙げられます。
利益を還元することで今後の関係も良好となりさらに貢献していただけることになります。
ポイントとしては利益還元とは言うものの将来の利益につながる還元であることです。
例えば従業員に対する決算賞与については、本当に頑張って結果を出して今後も活躍が期待できる人に支給するのが基本です。
退職する予定であったり、今後の活躍は期待できない場合は無意味な支出となります。
いくら節税になっても将来の利益につながらないのであれば、その支出は無駄な支出となってしまいます。

またこれは事前に税務署に届出を提出するなどテクニックが必要ですが、経営者本人にもある程度の利益還元をすることは可能です。
それで経営者本人のモチベーションが上がるのであれば、それ自体も将来へつながるものと言えることになります。

将来への投資

また将来への投資として経費になるものを支出すれば、節税しながら成長を実現することができます。

広告宣伝・商品開発など

将来の売り上げ拡大のために広告を打ったり、イベントを企画したりして潜在顧客や顧客リストを築き上げていきます。
ホームページの作成や新しい商品やサービスの開発などに費用を投じてもいいでしょう。

研修・ノウハウ構築など

社員のレベルアップや企業としてのノウハウ構築などのために研修やセミナーを受けたり、その関連書籍や資料の購入などをしたりします。
これによりその費用で節税しながら将来のためになる投資ができます。

その他・無駄遣い

自分で使いたいように使う自分へのご褒美や完全な無駄遣いも節税にはなります。
たまにはこのようなお金の使い方もいいかもしれませんが、
優先順位は、、、
最後まで言いませんが、できれば避けていただきたいものです。
ご本人は節税とためにとやっていることも実はただの無駄遣いということは結構あります。
逆に人から見れな無駄遣いに見えても実はとても将来に繋がるものであることもあります。
ここの部分は経営者ご本人にしかわかりませんが、最終的に自分にすべて返ってくるものですので、慎重にご検討いただければと思います。

会社のステージ使い分ける節税の方法

会社のステージによって節税方法は全く異なるものになります。
(本来は設立目的によっても違いますが、そこは今回は割愛します)
主に創業・成長期、安定期、衰退期に分けて説明します。

創業・成長期の節税

創業・成長期に健全な成長をするためには、社内留保と資金調達が必要になります。
なるべく利益を出して無駄な支出をせずに内部留保に努めるとともに、その利益と内部留保を担保に金融機関から有利に資金調達を実現していきます。
あまり節税しすぎないことで、会社の成長を最も早くそして確実に実現できることになります。

安定期の節税

事業がある程度成長して安定期に入ったと判断した場合は、徐々に節税を兼ねた将来への備えを準備する時期となります。
非課税積立を利用した将来への積立事業自体の仕組化などに投資していく段階となります。
事業を安定化するとともに、自分の退職金や引退後の生活などを設計し始めるのもこの時期かと思います。
このあたりは最も経営者の方の考え方が分かれてくる部分です。
成長と安定のバランスや自分に合った将来のプランを描きながらそれに合わせて節税方法を選択していくことで、節税を兼ねながら、退職金や賃貸不動産、自分がいなくても回る会社など経営者にとっての財産を形成することも可能です。

衰退期の節税

企業はずっと発展させていくべきものではありますが、人間はいずれ引退することになります。
どちらかというとプライベートカンパニーのような、一個人の事業を法人化したような会社も多数存在します。
その場合いずれ縮小したり廃業という選択肢も現実的な選択となります。
このような方針の場合、上手に会社の財産を取り崩していくことも考えなければなりません。
有利な配分なども見直しして単年で見れば節税の観点からは不利であったとしても、個人に所得を集中させていくなど、将来を見据えた節税をする必要も出てきます。
最後に会社を解散したり売却したりする場合に多額の財産があると、配当課税や譲渡益課税が大きくなります。
退職金の利用を計画的に視野に入れるなど廃業に向けた対策を上手に行う必要があります。

成長を同時に実現するための考え方

成長するための経費で節税する

前項目の「支出あり戻り不明」の項目の部分がこれに該当します。
会社がもっと成長するための支出を節税を兼ねながら投資として行うことで、節税を成長に変えることができます。
広告宣伝や研修なども例として掲げましたが、そのほかにも会社や事業が強くなるものへ投資していくことで、節税を兼ねながら成長を実現していくことができます。
そのために大事な一つの考え方が「無形資産」の構築です。

無形資産を構築するという考え方

企業には目に見える資産と目に見えない資産があります。
だいたい目に見える資産は、金額などの基準があり一度に税務上の経費とすることができません。
しかし企業価値を上げる目に見えない無形資産を構築する費用はほとんどが経費として処理できます。
経費で構築できる「企業にとっての無形資産」の主なものは以下のとおりです。

  • 人、組織
  • 顧客リスト
  • ホームページ
  • ノウハウ、仕組み
  • ブランド、信用などなど


このような経費で構築可能な無形資産へ投資することで、節税をとおして成長へつなげることができるようになります。無形資産への投資とその成果の差が将来大きな業績の差になってきます。

過度な節税をしないことによるメリット

冒頭でも申し上げましたが、節税には税負担を少なくするというメリットがありますが、逆に過度の節税には資金や信用を失うデメリットもあります。
さらに会社の目的や方針によっては節税をやり過ぎないことは、節税のメリットをはるかに超えるメリットがあります。
そのメリットについて説明します。

資金繰りが安定する

まずは資金繰りがどんどん安定していくことです。

税引き前の利益が500万円あるとします。
それを節税ということでプラマイゼロにしてしまえば税負担はなくなります。
しかし500万円の利益と資金はどういう理由であっても消えてしまいます。

もし節税せずにそのまま納税していれば、恐らく380万円程度の税引き後の利益と資金が残ります。

お金がゼロになるか380万円残るかどうかは、その後の資金繰りに大きな影響を与えます。
その後の資金繰りが確実に良くなるのは、380万円の利益と資金を残したケースです。

どちらがその後の資金繰りがラクなのかは一目瞭然です。
さらに年数を重ねれば、資金と利益はその年数分大きな差になっていきます。
30年後(その差は1憶1,400万円)に、このことに気づいても後の祭りです。

社会的評価があがり成長を加速させることができる

適正な利益を計上することによって社会的信用があがり、金融機関からの評価も高くなります。金融機関は当たり前のことですが、返済能力のある企業にしか融資はしません。
銀行は冷たいなどと文句言う人もいますが、利益を計上できない企業がお金を貸してくれと言うこと自体、金融機関からすればあり得ないことなのです。

金融機関は節税で利益が出ていないのか、単純に実力不足で利益が出ていないのかは判断できません。目の前の利益を節税のために消してしまえば、それは自ら融資できない企業へと評価を落としてしまっていることになります。

逆にきちんと利益を出して納税していれば、内部留保が増え、自己資本が増加します。
そうすれば返済可能額はどんどん増えて融資可能額も増加します。

融資を受けることでさらなる成長をすることができれば、節税による利益などどうでもいいような資金と利益を手にすることができます。

またピンチの時も正常時の力を理解してもらえていれば、助けてもらうこもできます。

金融機関との良好な関係のためには、適正納税が必須になります。

それにより通常より早い成長いざという時の備えを手にすることができるのです。
このメリットは企業を成長させたい経営者にとってとても大きなものとなります。

成長を望む経営者の方が節税と称して利益を消してしまう行為は、大きな間違いであることがお分かりいただけると思います。

節税と成長を同時に実現する方法・まとめ

いかがでしょうか?

基本的に経費をたくさん使ってお金を目の前から消せば税金の負担は軽くなります。
しかし本来の目的や趣旨に反するただお金を失うような節税は、節税は出来ていてもそれ以上に利益と資金、場合によっては大事な信頼まで失っている可能性があります。

その企業の状況及び今後の展開や目標などによって、節税対策は全く異なる方法になります。
状況によっては思いっきり節税を実行すべき時もありますが、あまりやり過ぎると正しい成長を大きく妨げることもあります。

企業努力の成果である利益は、適正な割合で内部留保もしくは成長への投資をしていくというバランスが取れた決算対策を行うことで、本来の目的である事業の成長や安定を手に入れることができるようになります。


節税も大事ですが、それより真の目的はもっと大事です。
そちらの妨げにならない選択をしていただければと思います。
節税だけを主な目的とせずに、お金を正しく使い事業を成長させることが何よりも大事なことがお分かりいただけたのではないでしょうか。

<参考>税理士の節税対策

たまに言われるのは、
「税理士さんって自分たちだけうまいこと節税しているんでしょ?」
みたいな質問です。

確かにある程度はやりますが、どんな手段を使ってでも絶対に節税したいという固定観念が強い方に比べれば、全くやっていないに等しいというのが実情です。

過度の節税を行うことのデメリットも知っていますし、何より資金支出を伴う節税をするくらいであればその資金を手元に残すか有効活用した方がいいことをわかっているからです。

内部留保を厚くすことによる安心感やそれによる社会的信用の獲得など、過度の節税をし過ぎないメリットについても十分熟知しているのも理由の一つです。

過度の節税をたしなめると

「国税の味方だ!」

とか

「国税が怖いの?真面目過ぎるのもどうかな?」

などとおっしゃる方がもたまにいますが、そういう理由で止めているわけではありません。

この記事をご覧になっていただき、本当に関与先企業の健全な発展を願うからこそ申し上げていることをご理解いただければ幸いです。